ホーム > 健康講座 > 健康のお話 > ボツリヌス毒素による顔面痙攣の治療







脳神経外科  不破 功  


 顔面のひきつりがおこる病気は、一般に片側でおこることから、「片側顔面けいれん」と言われています。緊張した場合や、人と話をしている場合などに、口の周囲や目の周囲のひきつりが頻回におこり、美容上はもちろん、対人関係で消極的になるなど、社会生活上も悪影響がでます。病気の原因は、脳の深部にある顔面神経が脳の血管に長期間圧迫され変性をきたしておこると言われています。あるいは、稀ですが、脳腫瘍による圧迫が原因となることがあります。

 手術により圧迫血管を移動させる方法もありますが、全身麻酔による開頭手術を必要としますので、高齢の患者さんでは新たな神経症状の出現や合併症の危険性があります。当院では、この「片側顔面けいれん」に対して、MRIなどにより確実な原因を調べ、脳腫瘍などが認められない場合は、ボツリヌス毒素による治療を行っています。

 ボツリヌス毒素は、食中毒の原因となるボツリヌス菌が産生する強力な毒素で、神経の麻痺をきたすものです。最近、この毒素を微量に顔面などの筋肉に注射することで、軽い顔面の筋肉を麻痺させ、顔のひきつりや斜頚などを治療する治療法が開発されました。治療薬剤として安全性が確立しており、保険適用が認められています。

 治療方法は、患者さんの顔面を良く観察し、ひきつりの強い口周囲、眼瞼周囲の部分に、微量に薄めたボツリヌス毒素を皮下注射します。一般に10カ所程度の注射を行います。外来で行い、治療時間は15分程で終了し、約1時間の安静後に帰宅が可能です。

 副作用としては、もともと筋肉の麻痺をおこす治療法ですので、ひきつりの強い患者さんなどでは薬剤の量が多くなる傾向があり、口や目の周囲の筋肉の麻痺(いわゆる顔面神経麻痺)がおこります。多くは軽い麻痺で1―2週間程で改善します。

 この治療法は根本的な治療方法ではありませんので、薬剤の効果はおよそ4ヶ月程度です。効果期間が過ぎると、再び顔面のひきつりが再発してきます。従って、年に3回程度はこの治療を継続していく必要がある点が欠点と言えば欠点です。しかし、過去には開頭手術意外に有効な治療法がなかった「片側顔面けいれん」が、日帰りで治療可能となり、この病気で困っている方にとっては大きな福音となったことは間違いありません。今後は更に効果時間の長い薬剤の開発が待たれます。