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  腎臓内科  藤江 康行  


 腎臓は、高血圧・糖尿病といった生活習慣病で悪くなりやすい臓器で、生活習慣に気をつける事が大事な臓器なのですが、普段皆さんには中々馴染みのない臓器だと思います。それもそのはず、手を後ろに回してわき腹と背骨の中間あたりの場所にあるこの一対の臓器はかなり悪くならないと悲鳴(=症状)を言いません。

 しかも、症状を出すといっても痛くなったり違和感を感じるわけではなく、おしっこが出にくくなったり、だるくなったり、むくんだりといった間接的なものが多いのです。肝臓などと同じく沈黙の臓器と言われる所以で、症状が出た時にはかなり悪い状態であることもしばしばです。

 そのような、私から言わせると我慢強く健気な臓器なのですが、逆にそこまで我慢強いが故に、少し腎臓が悪い、または中くらい腎臓が悪い患者さんでさえも「体調はどこも悪くない。」という訴えの場合が多いです。特に高血圧や糖尿病といった生活習慣病からくる腎不全の場合に多いです。

 それも確かに頷けます。だってどこも痛かったり痒かったりといった症状がないのですから。果てには、「なんで薬を飲まなければならないんだ、どこも痛くも痒くもないのに」という話にもなるわけですが、血液や尿の検査では腎臓はちゃんとサインを出しており、我々腎臓内科医はそのサインを見て、こうした方が腎臓を守れるのではないか、ということで薬を提案するわけです。

最後の最後まで我慢する腎臓ですが、最後になると今まで我慢してきた分、一挙に症状が出てきます。尿毒症と言われるもので、だるさ、ムカムカ、息切れ、かゆみ、むくみ、食事の味がしなくなった、食欲低下、視力低下、イライラ、呼吸困難、動悸、血圧上昇、貧血といった様々な、一見腎臓とはかけ離れた部位(上の症状だってどちらかというと消化器・肺・心臓・目・皮膚で腎臓がある腰周りではないでしょう?)に症状が出てくるわけです。   
 腎臓がそのような悲鳴(=症状)をあげると透析や移植療法等を考えなければならないのですが、その際も「もっと早く症状が出ていれば・・・」と医師も患者さんも嘆く事がありますが、この発言そのものが、文句一つ言わず粛々と頑張ってきた臓器に対して「君(腎臓)がきちんと症状を言ってくれなかったから」と腎臓のせいにしているきらいがあります。
 健気な臓器に対してなんという仕打ちでしょう。

 ある時、僕は糖尿病から腎臓を少し患っている、いささか放言・毒舌調のバーのマスターから冗談まじりではありますが「飲んでもまったく効いている感じがしないし、量は多いし、腎臓や糖尿の先生達は、なんであんなに薬を出すんですかね?それで気分が良くなったりするわけじゃないんだから、どうしても飲み忘れたり飲む気がおきなかったりするんですよね。」と、会話のキャッチボールで変化球を投げつけられた事があります。

 「お酒の場(まあ私は飲めませんが)で仕事の話は不粋ですなぁ」、といなしつつも、確かに耳が痛い話で症状がすぐによくなるわけはない薬は確かに、どう納得してもらうか苦慮します。
 この変化球に私は、必死に知恵を振り絞り、かつ腎臓を愛してやまない立場から次のような回答をしました。

 「文句一つ言わずあなたを影ながら支えてくれる素敵な女性がいたとしたら、あなたはどうしますか?」
 「そりゃ当然守ってあげたくなると思うけど、先生、そりゃ独身である先生の妄想でそんな女はこの世にはいないよ、夢見すぎだよ。(ここでちょっとムッとしたのはさておき)でも、何でいきなりそんなこと言い出すの?」
 という話になりますよね?

 「腎臓はそういう臓器なんです。かなりひどくならないとピーチクパーチク文句(=症状)を言わない我慢強い貞淑な臓器で、本当は悲鳴をあげたいんだけど、何とか持ち主(患者さん)に迷惑をかけまいとギリギリまで悲鳴をあげないんです。そんな縁の下の力持ちで健気で甲斐甲斐しい臓器に対し、ボロボロになるまで酷使するんですか。それは男として日本男児としてどうですか、という話を言いたいわけですね。」

 お酒の場でないと、とても言えない歯が浮くような台詞で、おそらくちょっと酔っていた(私は凄く酒が弱いので、アルコールの香りだけで酔える自信があります)とは思いますが、これを聞いたマスターは、なかなか若造がいいよる、と思ったのか、一応今後は薬をきちんと飲む事を約束してくれました。
 これが女性相手なら、不器用で言葉数は少ないけど、あなたを愛してやまない人という話になるのでしょうか。

 いずれにしても、かくのごとく腎臓を愛してやまない私なので、日々、「症状は全くないんだけど・・・」という患者さんに何とか薬を飲んでもらう、腎臓がこれ以上悪くならないように守ろうと苦慮しております。ただし、食の欧米化・外食産業といったありえない塩分・カロリー量の強敵に、悪戦苦闘しております。
 ただ、その時こそ、私の腎臓に対する愛が試される時だと思い、また患者さんにも、長い目で見て体を労わる事の大切さをわかっていただけたらと思い、日々診療にあたっております。

そして残念ながらご自身の腎臓では、どうにもならないくらいに弱ってしまった患者さんは透析療法や腎移植療法を選択せざるを得ないのですが、そういう時でも「腎臓が悪くなったのが何もかもいけないんだ」と腎臓のせいにするのではなく、今までギリギリまで文句一つ言わず頑張ってくれたんだ、ありがとうね。」と腎臓に感謝・お疲れ様の意を示すと共に、かわりに今度は透析等の治療で持ち主を守る事を任されたと思い、日々診療に当たっていけたらと思っています。